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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)797号 判決 1957年4月27日

原告

長田華生

被告

東京川野ゴム株式会社 外一名

主文

被告両名は原告に対し、各自金一、〇七二、三二五円を支払え。

原告のその餘の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告両名の負担とする。

この判決は原告に於て各被告に対しそれぞれ金三五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

(一)  別紙(省略)目録記載の商品についての原告主張の(一)につき考えるに、原告が皮革等の販売を業とする者であること、被告川野が被告会社の代表取締役であること、被告会社が原告に対する債権者の一人であること、原告が昭和二八年七月不在中の応急措置を店員福田喜代司に委任したこと、同月二三日被告会社店員が被告川野の指図により原告所有の別紙目録記載品名の商品を原告方から被告会社の自動三輪車で搬出したこと、その後被告会社が東京方面でこれを売却したことは当事者間に争がない。

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一乃至三、証人福田喜代司、高田脩、大野定雄、平松貞一、の証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は昭和二八年七月藤崎平次郎の詐欺により約七、七〇〇万円の損害を受けたので前示のように福田喜代司に一任し藤崎の行方を探しに出かけた。福田は同月二三日原告方に債権者の集合を求め、被告川野を含む約一五人の債権者が協議の結果、藤崎の詐欺被害に対する処置の見込が着くまでの間一時被告会社倉庫に原告の全債権者のため別紙目録記載の品名数量の商品を保管することを被告会社に委任したものであつて、原告の被告会社に対する債務の代物弁済として被告会社のみに提供したものではない。原告は同年七月末日頃被告会社東京本店で被告川野に対し右商品の返還を求めたところ拒まれたことはあるが、被告会社に対する右商品の所有権移転を承認し且つ東京方面の債権者にこれを分配することを懇請したようなことはない事実を認めることができる。証人和地富美男の証言、被告会社代表者兼被告川野本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠と対照とすると信用することができない。また被告会社代表者兼被告川野本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一乃至第六号証、右尋問の結果、証人和地富美男の証言によると、被告会社は後記のような右商品売却代金九二二、三二五円、村瀬勉商店からの取立代金債権八三、五八〇円合計一、〇〇五、九〇五円を被告会社の外、東京方面の原告の債権者である松田健一郎、和地鞄嚢株式会社、倉田鞄製造所こと沖野省一、ミナカ産業株式会社、米屋産業株式会社に対しその債権額に応じて分配した事実を認めることができるけれども、右証言及び本人尋問の結果によると、右東京方面の債権者は被告会社の紹介により原告と取引を開始して間もなく原告に対する債権回収困難の状態となつた事情もあつて被告会社の責任上東京方面の原告の債権者を排除して被告会社の債権のみの弁済を受けることが事実上困難であつた事実を認めることができるから、被告会社が東京方面の債権者に分配した事実があつたからといつて必ずしも原告が被告会社に右商品の所有権の移転したことを承認した上東京方面の債権者にも分配することを被告会社に懇請した事実を認容しなければならないものとはいえない。

証人和地富美男の証言、被告会社代表者兼被告川野本人尋問の結果によると、被告会社が右商品を売却したとき相手方が善意取得した事実がうかがえるから、原告はその所有権を失つたものといわなければならない。

原告主張の別紙目録記載の商品の価格は、成立に争のない甲第二号証及び証人大野定雄の証言によると、仕入原価によつたものであることが認められるが、右商品の価格の変動が多いことは明らかであつて、被告会社が右商品を売却した当時も仕入価格と同一の価格を保つていたことを確認するに足りる証拠はなく、かえつて証人和地富美男の証言、被告会社代表者兼被告川野本人尋問の結果によると、右商品はその品質良好でなく容易にその買主を得ることができなかつた事実を認めることができるから、被告会社が右商品を売却した当時の価格は被告の自認する九二二、三二五円を超えるものと認定することはできない。

右事実によれば、被告川野は被告会社の代表取締役としてその職務を行うについて、右商品が原告の全債権者のため被告会社に保管を委託されたものであつて原告から被告会社に代物弁済として提供せられたものでないことを知りながら勝手に他にこれを売却し原告の所有権を侵害したものであるから、被告会社は不法行為による損害賠償として原告に対しその価格に相当する九二二、三二五円を支払うべき義務があるとともに、被告川野は右不法行為について個人として原告に対し被告会社と同一の損害賠償義務があるものといわなければならない。

(二)  スクーターについての原告主張の(二)につき考えるに、被告会社大阪支店員日比谷浩史が原告主張のラビツトスクーター一台を持ち帰り被告会社はこれを後日売却処分したことは当事者間に争がない。証人福田喜代司、横畠道子の証言、証人日比谷浩史の証言の一部を総合すると、日比谷は昭和二八年七月二五日頃原告から右スクーターを原告方の女中に「一寸貸して欲しい」と申して原告或いは福田の承諾なくして持ち帰つたまま返還しないものであつて、たとえ日比谷はこれを被告会社の原告に対する債権の代物弁済とする意思があつたとしても福田から代物弁済とすることの承諾を得ておらなかつた事実を認めうることができ、被告会社が前示のようにこれを他に売却した以上、特別の事情のない限り、善意取得により原告はその所有権を失つたものといわなければならない。

もつとも、被告会社代表者兼被告川野本人尋問の結果によれば被告川野は日比谷から代物弁済として原告のスクーターを持ち帰つた旨の報告を受けた事実を認めることができるけれども、前示のように真実代物弁済として提供を受けたものでない以上、日比谷の右報告を軽信し、その後改めて原告にその事実を確かめることもせずして右スクーターを売却処分して被告会社の債権に充当したものであるから、被告会社は被告川野がその職務を行うについて原告に加えた損害を賠償すべきものであるが、前同様被告川野も同一の責任を負担するものといわなければならない。原告は右スクーターの時価一六五、〇〇〇円であると主張しているが、証人日比谷浩史の証言によれば、右価格は新車としてその価格であつて右スクーターは既に原告が使用していたものであつた事実が認められるので右スクーターの右当時の価格は原告主張の一六五、〇〇〇円であつたことは確認することができず、被告の自認する一五〇、〇〇〇円を超えるものと認定することはできない。

従つて被告両名は各自原告に対し一五〇、〇〇〇円を支払うべき義務があることが明白である。

(三)  村瀬勉商店に対する売掛代金債権についての原告主張の(三)につき検討するに、原告が村瀬勉商店に対し、八三、五八〇円の売掛代金債権を有していたところ、被告会社がこれを取り立てたことは当事者間に争がない。

成立に争のない甲第三、第四号証、原告本人尋問の結果、被告会社代表者兼被告川野本人尋問の結果の一部を総合すると、被告会社は原告と取引する以前から村瀬勉商店と取引があり、その後直接原告と取引をするに至つた関係もあつて同人と相当密接な関係があつたので原告が同人に対し売掛代金債権を有することを知つていた。そこで昭和二八年八月一日被告会社は原告から取立の委任を受けていないのに、同人に対し、原告の委任を受けたと称して同人からこれを取り立てたので、原告は同人に対し原告の承諾がないのに被告会社に支払つたことに異議を述べた事実を認定することができ、被告会社代表者兼被告川野本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用することができない。

原告が村瀬勉に対し、原告の承諾がないのに被告会社に代金の支払をしたことに異議を述べたことは前示のとおりであるが、原告が村瀬勉に対し被告会社が原告の無権代理人としてなした代金受領を追認したことを認めるべき証拠は何もない。従つて原告の村瀬勉に対する右代金債権はなお存在するものであつてその消減したことを前提とする原告の右主張は理由がない。

そうすると被告両名は各自原告に対し別紙目録記載の品名のもの価格に相当する九二二、三二五円、スクーターの価格に相当する一五〇、〇〇〇円合計一、〇七二、三二五円を支払うべき義務があることが明らかであるから、原告の被告両名に対する本訴請求は右限度で正当としてこれを認容すべきものであるが、その餘の部分は失当としてこれを棄却しなければならない。そこで訴訟費用の負担につき民訴法第八九条第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 中島孝信 芦沢正則)

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